オカリナ

copyright by wakisaka fumihiko




”この手紙が君のところへ届く頃には
僕はイグドラシル(宇宙樹)の幹を登っている”






”ああ何て謝ればいいんだ
君の大事にしていたオカリナ、
僕は借りといて壊してしまった”











”イグドラシルの上には、オカリナ造りの
巨人の工房があるんだ”






「お邪魔しまーす…」

「…寝てる…」






「うわっ!目覚し真っ昼間に合わせてる
鳴らしたら起きるかな」






「んっ?」













「…お?そのオカリナは…」






「こりゃあ俺の親父が造った
ものだな…壊したんか?」

「はっはい!」






「そのオカリナを直してください!
お金ならここにあるだけ払います!」

「金は当然だ、ただそれだけじゃ
これは直らんぞ」

「えっ?」






「魔法のオカリナを直すには
誰かの一番大事なものを焼いた
灰を練りこんだ”念土”が必要だ

そうでないと魔方陣で
べレス(悪魔)を呼び出せない」

「僕にとって一番大事な物…?」











「抽選で当たったゲームのパンフレット!」

「全然違う!」











「好きな娘からもらった手紙!」

「近いが違う!」






「分からんか?教えてやろう
お前の白髪だよ」

「白髪っ?」






「お前の種族は楽しい事や悲しい事が
ある度に髪が一本白くなる、
その記憶の髪が必要なのさ」

「記憶を失くすの?」

「全部とは言わん、だが楽しい思い出は
ほとんど残らんだろう」

「…」






「…元々僕が悪いんだしな…」

「ほお、覚悟を決めたな?
お前ちょっとカモられやすいタイプだぞ」






「せめてハサミで切れ〜!」









ド サ ッ






「ココは山岡、ダイヤの山岡…」

「情けない、そんな下らないギャグだけ
覚えておるとは…」





「お前にとって大事なのは、それ、
その直ったオカリナだろうが!」






「そして友人にオカリナを返して詫びるのだ
心を込めて詫びればきっと
友人はもう一度オカリナを吹いてくれるだろう
その調べがお前の最初の楽しい記憶とならんことを!」



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