柿の種

copyright by wakisaka fumihiko








やべっ 種飲んじまった





“雀さん……雀さん……”
誰だ? オレに話しかけるのは?





“私はあなたに食べられた柿の種です……
私を食べたあなたにお願いがあるのです……”





“私の親は最近ここへ植えかえられてきたのですが、
ここでは種が落ちても木の生える場所がありません”





“だから私を広い肥沃な土地まで運んで欲しいんです”
けっ 知った事かよ、俺は忙しいんだ





“……お願いをきいてくれないなら
あなたのおなかの中で発芽しますよ”
わっ! 待ってくれ 言うことを聞くよ





まったく何でこんな事しなけりゃいけないんだよ……





繁華街は抜けたけど住宅地が続いているな……
“もっと遠くへ行って下さい”





住宅地は抜けたけど工場が広がっているな……
“もっと遠くへ行って下さい”





いったい人間の街はどこまで続くんだい










なあ柿の種……
“何ですか?”
お前の親が前生えていた所ってどんな所なんだい?




“私の親の住んでいたところは名家の直系で立派なお屋敷でした”





“毎年秋になると坊ちゃまや嬢ちゃまが
たわわに実った柿の実をとってはほおばったということです”





“それが当主が亡くなって遺産の相続の際に土地が売り払われ
私の親も今のところへ植えかえられたのです”
ふーん……





冷てっ





おっ 雨も止んだようだ





だいぶ木々が濃くなってきたな
“もうここで大丈夫です 私を落として下さい”





ぷっ





“ありがとう雀さん、私はきっと一人前の柿の木になって
またあなたの仲間に実を食べてもらいます”





用が済んだ雀はさっさと家路につきました





しかし田舎から帰ってみると都会は
うんざりするほどゴミゴミしているのでした


作品一覧に戻る