copyright by wakisaka fumihiko
昔栃木の横枕に美しい娘があった
この娘に惚れたのが乱暴者の男で
無理やり求愛して結婚をせまったのだが
娘は断としてそれを聞かなかった
そんな男が小楢の木の下の
長老に相談を持ち込んだ
男:俺はどうしてもあの娘を
自分の女にしたいんだが
ちっとも聞いてもらえねえんだ
じいさんよ、あの娘をおとす妙案を
教えてくれないか
…長老は長い沈黙の後こう言った
長老:お前は横枕の木に咲く紫の花を
手に入れられるか
男:あ???
長老:愛を告白するには特別な花がいる
それに女を振り向かせるには
どんなことでもやる覚悟が必要だ
私はこの木の下で待っている
お前が夕方までにその花を持ってきたら
あの娘をお前の嫁にする秘策を教えてやろう
男:……、じじい、今の言葉忘れんなよ!
さっそく男は横枕の山という山を駆け回って
紫色の花の咲く木を探した
男:違う
男:違う
男:これも違う!
男:そうこうしているうちに約束の時間じゃねえか
あのじじい俺に無い物を探させやがったな!
男は憤慨しながら長老の所へ帰ってきた
男:あ……っ!
男:紫の花……!
長老:どうだ、若いの
この花をお前は手にすることができるか
男:できねえ…のか…
長老:人の心は他人が手に入れられるものではないのだ
お前は見えるときに眺める、それだけでよいではないか
男は泣きながら紫の花から走り去っていった
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