周囲は変わってしまったが

--『おねしょの書』(パジャマ教の聖典)より

周囲は変わってしまったが

あまりに長い夢を見ていたため、荘子は目を覚ましたとき、
自分がすっかり何者であるか忘れてしまった。
周囲は変わってしまったようだが、
以前とさして違わないようにも見えた。
誰も顔見知りがいなかったので、電車に乗り都会へ出た。
ミュージシャンとなってバンドを結成した。
そして「胡蝶」という美しい曲でデビューした。

*『おねしょの書』にはここで登場した荘子をはじめ、古今東西の著名人が多く登場するが、史実や文献をないがしろにしたものも多い。


針の穴に通すことより

--『おねしょの書』(パジャマ教の聖典)より

針の穴に通すことより

あるときヨブが心配そうに尋ねた。
「神よ、私には慎ましいながらも蓄えがあり、
夜になると、小さな数字たちが私を苦しめます。
話によれば、富貴なる者が天国へ行くのは、
駱駝が針の穴を通るより難しいとか。
私が富貴ではないにしても、
恐らくそれは真実でしょうか?」
神は答えた。
「大きな動物を針の穴に通すことを考えるより、
駱駝の数を数えなさい。
数え続ければ、やがて眠れるであろう」

*「マルコによる福音書」にこれと似た冗談が書かれている。誤訳という説もある。


岩戸を閉じることはできなかった

--『おねしょの書』(パジャマ教の聖典)より

岩戸を閉じることはできなかった

あるとき、パジャマの神さまがお隠れになった。
ようやく日も暮れようとするころ、
なんと、もうひとつの眩しい光が東にのぼった。
冷えはじめた大地の熱は、再び耐えがたいものとなり、
ふたつの太陽が、かわるがわる現れては肌を焼き、
草木を枯らした。
神々は日没とともに再び一日のはじまりを迎え、
眠ることも許されず働いたり、
あるいは遊びつづけたりした。

ある神が言う。
「このままでは体がもたないよ。パジャマの神さまにお出まし願おう」
別の神が言う。
「このままでは心まで折れてしまうよ。パジャマの神さまにお出まし願おう」
そこで神々が相談し巨大な岩戸の前に集まった。
大小の太鼓、さまざまな弦楽器や管楽器、
巨大なアンプやスピーカーなどをもって集まった。
「神さまは、ここに隠れ眠っておいでだ。
われらの楽しい歌と踊りで、目を覚ましてもらわなければ」

心地よい夢のなかにいたパジャマの神さまの耳に、
がなりたてるような、出来の悪い音楽が聞こえてきた。
「ああ、頼むからやめてくれ。もう少し静かに」
ほんの少しだけ重い岩戸をあけ、そう懇願した。
だが、それには知らんぷり、聞こえないふり。
神々の歌と踊りは、ますますひどくなる。
「頼むからやめてくれ、もっといい音楽を教えてあげよう」
そのとき、さらにもう少しひらいた岩戸の隙間に、
力自慢の力士が「えい」とばかり、大きなドアストッパーを投げた。

音楽は終わり、静けさが戻った。
パジャマの神さまは再び眠りについたが、
もう岩戸を閉じることはできなかった。
日が暮れて、涼しげな風が吹いた。
歌と踊りに疲れ果てた神々も、それぞれの家と寝床に戻り、
望むだけの眠りをえることができた。

*パジャマ教の特徴として、音楽についての言及が多いことが一般に知られる。


枕を丸めよ

--『おねしょの書』(パジャマ教の聖典)より

枕を丸めよ

時は迫っているぞ。
今すぐパジャマに着替えよ。
枕を丸めよ。
布団の四隅は揃えよ。

*近代以降に創唱された他の宗教と同じく、パジャマ教にもやはりキリスト教をはじめとする一神教の大きな影響が見られる。


シーツには皺もなかった

--『おねしょの書』(パジャマ教の聖典)より

シーツには皺もなかった

昔の前、はじまりの最初。
まだ朝はなく、昼もなかった。
長い夜だけがあり、シーツには皺もなかった。
布団のなかは温かく、おそろしい火はなかった。
枕はちょうどよい堅さで、つらい肩こりもなかった。
ゆったりとした鼓動や吐息は感じられたが、
耳をつんざく大きな声はまだなかった。

夢だけがあり、パジャマの神さまも夢をみていた。
はじめに神さまはおつくりになった。そして歌った。
雲のような軽やかなリズム。海のような音色。
メロディーと言葉は、まだひとつのもの。
光あれと歌うと、光があった。
雨ふれと歌うと、雨がふった。
風ふけと歌うと、風がふいた。

*パジャマ教の信者は全世界に約10万人(教団発表)というが、恐らく誇張された数字であろう。