--『おねしょの書』(パジャマ教の聖典)より
岩戸を閉じることはできなかった
あるとき、パジャマの神さまがお隠れになった。
ようやく日も暮れようとするころ、
なんと、もうひとつの眩しい光が東にのぼった。
冷えはじめた大地の熱は、再び耐えがたいものとなり、
ふたつの太陽が、かわるがわる現れては肌を焼き、
草木を枯らした。
神々は日没とともに再び一日のはじまりを迎え、
眠ることも許されず働いたり、
あるいは遊びつづけたりした。
ある神が言う。
「このままでは体がもたないよ。パジャマの神さまにお出まし願おう」
別の神が言う。
「このままでは心まで折れてしまうよ。パジャマの神さまにお出まし願おう」
そこで神々が相談し巨大な岩戸の前に集まった。
大小の太鼓、さまざまな弦楽器や管楽器、
巨大なアンプやスピーカーなどをもって集まった。
「神さまは、ここに隠れ眠っておいでだ。
われらの楽しい歌と踊りで、目を覚ましてもらわなければ」
心地よい夢のなかにいたパジャマの神さまの耳に、
がなりたてるような、出来の悪い音楽が聞こえてきた。
「ああ、頼むからやめてくれ。もう少し静かに」
ほんの少しだけ重い岩戸をあけ、そう懇願した。
だが、それには知らんぷり、聞こえないふり。
神々の歌と踊りは、ますますひどくなる。
「頼むからやめてくれ、もっといい音楽を教えてあげよう」
そのとき、さらにもう少しひらいた岩戸の隙間に、
力自慢の力士が「えい」とばかり、大きなドアストッパーを投げた。
音楽は終わり、静けさが戻った。
パジャマの神さまは再び眠りについたが、
もう岩戸を閉じることはできなかった。
日が暮れて、涼しげな風が吹いた。
歌と踊りに疲れ果てた神々も、それぞれの家と寝床に戻り、
望むだけの眠りをえることができた。
*パジャマ教の特徴として、音楽についての言及が多いことが一般に知られる。