ありうる? ありえない?

想定外のことは起きるものだというのは、まあ当たり前の話で、私のようないい加減な人間が言ってもただの言い訳にしか聞こえないけど、カルトーラのような滋味溢れるちょっとこわもての人が歌ったりすると、異様な説得力をもってしまうというお話。

アコンテシ(ありうる)
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/cartola.mp3

いつもこの世は不思議さ
どんなことだって、ありうる
私の愛はもう終わった
君はきっと悲しむのだろう 泣くのだろう
心から愛していたけど 今の私にはできないよ
ただ嘘をついて暮らすなんて
愛しているふりなんてできないよ
ありえないのさ

ボサノヴァというより、サンバです。
しかし、「どんなことでもありうる」とか言っておいて、最後に「それだけはありえない」で終わる歌ってすごいよなあと思う。
*暑いので演奏や録音がいい加減なのはどうかお許しを。

ありふれた名前

ポルトガル語の歌詞を聴いていて「やたらに人間、人間と言っているな」と思ったことのある人は、多いかもしれない。私も、かつてそう思ったことがあるが、たぶんこの曲を聴いていたのだろう。
「マリア・ニンゲン」を「だめな人間」という歌にしたい気持ちも強くあったのだが、それをやりだすとどんどん脱線していくと思われたので、我慢してマジメに訳すことにした。
自分が愛する特別な人と同じ名前の人が、世の中に大量に存在するという事実。ふとした瞬間に、それがちょっとした驚異のように思われる……。
私にとって、この歌詞はすごくくだらないが、すごくピンとくる。

マリア・ニンゲン(ありふれたマリア)
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/maria.mp3

もしかしたら誰かほかの
人と出会っていたかしら
でもあなたのかわりになる人は
いないだろう

マリアなら ありふれた名前だが
あなたはぼくが ただひとり愛したマリアだよ
マリアなら ほかにも知ってるけど
冷たい他のたくさんのマリアたちとは合わない
マリアは特別なマリアさ
マリアだけがかけがえのない

マリアなら ありふれた名前だが
あなたは誰も まだ見たことのないマリアだよ
マリアなら ありふれた名前だが
あなたはぼくが ただひとり愛したマリアだよ

言い争いその2

この歌もカップルの言い争いの話らしいが、こっちのほうが深刻そうだ。
私も経験のあることであるが、言い争いというのはときにそれ自体が目的化してしまうことがあり、非常に困った状態になる。
そんなわけで、元の歌詞を聴きながらなんとなく「ためにする議論」という言葉が頭に思い浮かんだ。
しかし念のために調べてみると、「ためにする議論」というのは、こういう目的化してしまった議論のことではなく、あらかじめ結論を決めているような議論のことを言うのだそうだ。日本的というかなんというか……、こういう意味を微妙に取り違えている言葉というのが結構あるもので、これもまた困った状態である。

Discussao 議論
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/discussao.mp3

意固地になって 聞く耳もたない
売り言葉に買い言葉だけの議論
あなたの心は幸せになるの?
勝ち負け以外に何かがあるはず
心の迷いをあなたは
いつもの理屈と意見で隠すの? 隠せない
大切なもののすべてを失う
孤独と愛の違いも分からない

言い争いその1

世の中には言い争いばかりしているカップルというのがいて、そういうのが意外に仲良しということになっていたりする。
私などから見ると、仲がいいとか悪いとかいうより、そういう人たちは元気がありあまっているのではないかと思う。
当然のことではあるが、ブラジルにもそういうカップルが結構いるようである。

喧嘩はよそう
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/brigas.mp3

笑顔が 涙にかわる 私あなたを慰める
仲直りしよう あやまるから
今は少し我慢しよう
そのあと 私が泣く
こんどはあなたが慰めてくれるよ
愛はもっと深まるのさ
仲良くしよう 喧嘩はよそう

夜明ケ

私の好きなマンガにしりあがり寿先生の『夜明ケ』というのがあって、だからというわけじゃないが、「夜明け」という言葉さえ入っていれば、勇気がわいてくるようなところがある。
そんなわけでこんど訳した曲も、非常にネガティブかつ暗いが、私には何やら希望が感じられる……。

E Preciso Perdoar 許してあげよう
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/perdoar.mp3

ああ、夜明けが告げる 悲しみの歌
私は今、心決める
夢は消える 恋は終わる

愛すること 与えること 許すこと
間違うこと 恐れること 迷うこと

でも、これで終わりさ
あなたは決して変わらないし
苦しむのはいつも私 恋は終わる

かみさまのごかご

とことん愉快で元気な曲にしようと思ったのだが、出来てみるとそうでもないかな。
ひねくれた陰気な性格はよくない、と本当に思う。
ジャヴァンみたいな、かっこよくも楽しい演奏はできないし。
でも、精一杯の脳天気さ、根拠な希望、から元気などをこめてみました。
「神さまのご加護、きっとあるよ♪」

ジャヴァン「神さまのご加護 E Que Deus Ajude」
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/deus.mp3

仕事やめよか 未来のスター
あしたリオデジャネイロゆく 高速列車にとびのる
昨日の僕にはさよならさ さよなら

あした晴れたら出かけるのさ
夏は)リオデジャネイロゆく 2月はすてきな季節さ
昨日の僕にはさよならさ さよなら

誰もあらがうことのできぬ魅力でアメリカも夢中
行く当てのない広いリオデジャネイロで
神父の友だちが 友だちの 友だちが「神さまのご加護あれかし」と
あるといいね あるかもね
「神さまのご加護あれかし」と あるといいね あるかもね
あるかもね きっとあるよ きっとある

花と棘

ほんのたまに、この曲を日本語化できないかといわれたりする。
嬉しいけど、結構冷や汗ものの場合もある。思い入れのある曲だったりすると、がっかりさせる可能性のほうが高いだろうし。
今回は、4月にライブでご一緒させていただくノヴ吉田さんからの有り難いご相談である。正直いって、知らない曲だった。
そして、こんなことがなければ、たぶん自分から日本語化することはなかった曲。
でも、なぜかえらく楽しくできた。
大人の男と女。お子様な私にはちょっと不思議な、でも少し覗いてみたい世界ではある。

花と棘
A flor e o espinho (Nelson Cavaquinho, Guilherme de Brito e Alcides Caminha)
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/espinho.mp3

君の笑顔さよなら
ここには痛みがある
今の私は棘よ
花には触れない
太陽を愛しても月は
君のそばにはいられないよ

鏡に映る心はまだ
こぼれそうな涙をこらえ
花にはなぜ 棘がある?
愛を傷つける棘よ

カエターノ特集その3(同性愛?編)

カエターノはこの2つの曲で男性の美しさ、素敵さについて歌っているようだ。

リオの少年 Menino do Rio
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/menino.mp3

レオンジーニョ Leaozinho
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/leaozinho.mp3

どちらもすごくいい歌詞なのだが、特にMenino do Rioのほうは、どうしても同性愛っぽい感じになってしまう。それでいいのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。その辺を超越した強さをもたせたいのだけど、私の力ではちょっと無理かなあ。

リオの少年♪
リオの街の 焼けつく日射しの
ドラゴン 入れ墨の腕も
短パン はだけた胸も
心 打つほどに美しく
風がふけば 彷徨う君のことを
思い出し 祈るよ

ハワイ? ここで夢見ればいい
胸のおく 波の音は
君の心 僕の心

Menino do Rio 君のための歌
キスとともに贈ろう

カエターノ特集その2

歌詞がしっくりこないのでレパートリーから外れていた「サンパ」をなんとかしようと悪戦苦闘している。
大好きな曲なので、本当はいつもやりたいのだ。
とりあえずひと段落したが、また変えたくなるかもしれない。
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/sampa.mp3

あと、もうひとつは「オダラ」。
これは初録音かどうか、よく覚えてない。
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/odara.mp3

サンパ
何かが心のなかではじける
交差点の真ん中 立ち止まる
あの頃 途方に暮れていた
街角から コンクリートの詩が響く
みすぼらしい 女たちの装いは
あの頃 知らなかったリタ・リー
あなたの歌 まだなく
何かが心のなかではじける
大通りの真ん中 立ち止まる

この街 初めて向き合ったころ
鏡のなかには 醜いもの
昔馴染みの 顔はなく
見知らぬ何か 恐れ抱いて
ガラスの街 立ちつくす ナルキッソス
都会に幸せな夢を見れば
やがて現実となるのに
だけど僕にはそれも出来ずに
鏡の奥の裏の裏へ

果てなく続く列 貧しい人
お金の力 壊された美しさ
星空も消える 煙のよう
深い森から やがて現れる
この街を称え 雨降らす神々が
サンバが響く ユートピアとしてのアフリカ
新しい国 キロンボ・ド・ズンビ
そんな可能性を思いながら
霧雨のなか 少し夢を見る

カエターノ特集

最近、カエターノ熱が再び地味に盛り上がってきたので、いくつか録音してみた。
まずは、「インディオ」。
確かだいぶ前にライブで何回かやった記憶はあるが、録音したのは初めてだと思う。
自分でも感心するくらいの珍妙な録音。ある意味、これまでで最高の出来かもしれない(笑)。

http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/indio.mp3

これができたのは、ちょうど昨日、都内某所でDoces BarbarosのDVDなどを見てトロピカリア・スピリット(?)をいただいてきたお陰かも……(シャクリーニャのドキュメンタリーも見せていただき、これもとても面白かった。勝手ながら、誘っていただいたMさんにこれを捧げます!w)。

インディオ
七色に輝いているあの星から
目の眩むような速さで君は降りてくる
南の大陸の真ん中で静かにその目を閉じて息を吸う
最後のインディオの国が滅びた後で
鳥たちの心 透明な水の滴
あらゆる文明よりもはるか前をはるか先にはるか遠く

今 その勇気を モハメド・アリに 垣間見る
誇り高きグアラニの 物語
沈黙と正義はブルース・リーの記憶に
音はリズム、フィリョス・ヂ・ガンディーと 今

確かな肉体のなかに彼はいる
すべての気体と固体と液体のなかに
あらゆる言葉、心、匂い、光と陰、色と音の磁場に
ふたつの大きな海から等距離の場所へ
輝く星から降りた一人のインディオ
この世の物事を明快な言葉で語ってくれるだろう

その瞬間に人々は初めて知るだろう
誰もが目を開き気づき驚くだろう
かけがえのない他者という名の自由が今もそこにあることを

もうひとつは新訳で「Ca Ja」。
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/caja.mp3

一握の砂 一粒にも 光の渦が 見えるだろう
波のあとには 新たな色 溢れる愛が 見えるだろう

今ここは花よ石よいつか
今ここは時の甘い蜜が
高らかな鳥の歌、今

大いなる時 小さな音 妙なる響き 聞こえれば
風鳴らす海 羽ばたく土地 心の動き 聞こえれば

今ここは花よ石よいつか
今ここは時の甘い蜜が
高らかな鳥の歌、今

カエターノをやるとどうも固い感じの訳になってしまう。もう少しやわらかい言葉でそれらしい雰囲気を出せればいいなといつも思っている。
「一握の砂」はやりすぎかもなあ、と思っている。しかし正直、どうしたらいいのかよく分からないのだ……。