歯医者


 歯医者に通っている。たぶん二十年ぶりくらいじゃないだろうか。麻酔をかけた口腔の感覚や歯を削る不快な音など、すっかり忘れかけていた感覚を思い出した。歯医者への道すがら、どうしても行くのが嫌で足が止まりそうになったこともあったっけ。
今だって歯医者へ行くのが嬉しいわけではないのだが、やめて遊びに行っちゃおうか、などと考えないところがやはり大人になったのだと思う。嫌だなと思いつつも足はすたすたと歯医者へ向かう。
途中、団地の屋上に時計塔があり、その向こうに月が見えたので写真を撮った。でも別に歯医者が嫌で時間稼ぎをしたわけではないのである。(2002.2.22)


トンネル

 小説や映画の冒頭でトンネルが出てくれば、ほぼそれは異世界への入口という約束に なっている。暗黒の向こう側には雪国があったり、妖怪たちが湯屋に通う世界があったり。けれども私たちがよく知っているこの世界では大抵の場合、トンネル の向こうはこちら側と何も変わったところのない、見慣れた世界である。そういう意味で非日常は、トンネルの向こう側ではなく、中にあるのだ。
この比喩は人生とか歴史とかにも応用できるかもしれない。トンネルのなかに長くいると、向こう側に過剰な期待をかけてしまいがちだ。実際、暗闇に慣れた 目に外はまぶしく輝いて見えることだろう。トンネルを抜けるあいだに、自分が変わったと感じられるからかもしれない。でも美しく感じられた日常の世界はじ きに新鮮さを失っていくだろう。
かつて、トンネルに入ることは人生の一大事だった時代があったのであろうな、と想像する。今や人間はトンネルに出たり入ったり、大忙しだ。トンネルの数 は増えたが、それぞれは短く、穴だらけになってしまった。穴だらけの世界に長い立派なトンネルを掘るのは大変だ。(2002.1.31)

追記:写真は鎌倉にて撮影。


ボウリング

ボウリングが好きだ。
なぜ好きなのかと問われるとよく分からない。「ボウリングは10本のピンと向かい合う宗教のようなものだ」とか(?)、テキトーな嘘を言ってごまかす。
本当はたぶんあの何とも言えない情けない気分がいいのだ。今度こそいい点が出ると思ってやると、やっぱりうまくいかない。ほんの少し調子がよいとすぐにいい気になったりするのも、実に情けない。
もしプロのように上手だったら逆に面白くないのではないかとも思うのだが、それは単にレベルが違うだけで、本質は同じなのかもしれない。つまりプロだっていつも落胆している、という仮説だ。
ボウリングのもう一つの魅力は、投げるときの独特のフォームだ。人それぞれ実に個性的で、友人が投げているのを見るだけでなんとなく愉快になる。前方か ら写真が撮れたら、友人たちのフォームを並べて楽しみたいのだが、そのためには禁止されているレーンの上を歩かなければならない。ボウリング場はプリクラ 機能のついたカメラを設置すべきだ。(2002.1.11)

追記:写真は高田馬場シチズンボウルにて撮影。


新年

2002年は谷中のペルシア料理屋「ザクロ」(写真)で迎えた。あちらは暦が違うので新年といっても全然めでたくないらしく、はしゃいでいるのはわれわれ日本人ばかりである。
ところでご存じのように、彼らの故郷イランはハタミ大統領のもと、現在大きな変化を経験しつつある。
日本などへ出稼ぎに来ていたイラン人は、帰国後その変化についていけず、大きなショックを受けるケースが増えているそうだ。異文化を生き抜いた彼らが、祖国の変化にはなかなか対応できない。ちょっと興味深い話だと思った。(2002.1.2)

追記:イラン料理屋で年明けを迎えた1月はイラン映画を見まくった。イラン映画といってもほとんどモフセン・マフマルバフとその家族の映画だが。ついでにイラン旅行に行きたい、とか絨毯がほしい、とか訳の分からない欲望が高まってきている。


給水塔


4つ目(?)のHPとして、給水塔のページを構想している。最初はただ漠然と、世の中でもっともマイナーで地味なページ、みたいなものを考えていたのだが、実は先行サイトがいくつかあることが判明した。こんなのとかこんなのとか。世の中にはちゃんとやるべきことをやっている人がいるものである。後発サイトはそれなりの覚悟が必要のようだ。
こちらとしては、情報量や写真の質で勝負することはできないし、できれば訪れた人が「なんじゃこりゃ?」と首をひねるようなものにしたい。しかし構想は遅々として固まらない。本当は寒くてあまり散歩していないから、という説もある。左の写真は寒くなる前に撮った野方配水塔(東京中野)である。(2001.12.25)

追記:給水塔の魅力が何なのか説明したいのだが、なかなかうまくいかない。ひとつには単純に形の美しさ。まわりの風景になかなかとけ込まない違和感。水が入っているという機能そのものの健気さ……。などなど、さまざまあるのだが、説得力はあまりない。