ミュージシャンのようなサントス・デュモン

飛行機とは何か、飛行機を「発明」したのは誰かという議論はすごくむずかしそうだ。
子どものころライト兄弟の伝記は読んだが、熾烈な訴訟のことはあまり書いてなかったように記憶している。もちろん、リチャード・ピアースなんて人のことは知らなかった。
そして今、あらためて彼らの写真を見ると、なんだかお友だちになれそうにない気がする。

サントス・デュモンの話で感動するのは、それがまぎれもなく「空を飛ぶこと」の話であって、特許や競争、ビジネスをめぐるあれこれではないことだ。
秘密主義のライト兄弟とは反対に、技術や情報は公開し、共有することが進歩にとって重要だと考えた。
飛行船、飛行機、そしてヘリコプターへ。それはまた愉快なストーリーやかっこいいスタイル、あるいは美しさのあれこれでもあった。
サントス・デュモンならやはり、今話題のあの醜い飛行物体を拒否しただろうか。それ以前に、飛ぶ力を戦争に用いること自体を嫌ったはずだ。
戦争にはそれほど縁のないブラジルだが、飛行機は内戦でしっかり使われた。サントス・デュモンの自殺には、そのことに対する絶望が関係しているともいわれる。

おそらく、飛行機と音楽の歴史には少し似たようなことがいえるだろう。
かつて人々は、音楽が誰のものかということにそれほど強くこだわらなかった気がする。
ブラジルは今も、いい歌を分かち合うのが上手だ。だからこそ、歴史的にはサントス・デュモンと同じく結局「トク」はしなかったが。
ここから先は、あまり書きすぎないほうがいいかもしれない。
サントス・デュモンの写真は、飛行実験も野外コンサートみたいだで、ある意味でどれもミュージシャンみたい。
なかでも大好きなのは、空を飛ぶ練習なのか、ものすごく高い特注の椅子に座って新聞を読んでいる写真だ。


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