クスクスの謎

「ブラジル・パンデイロ」という名曲があり、仲良く3つの料理名が並んでいる。クスクス、アカラジェ、アバラー。歌詞の内容からいって、どれもバイーア名物らしい。
アカラジェはブラジルで食べたことがあるので、なんとなく分かる。アバラーはその蒸し物バージョンだろうか。
しかし、ここにクスクスが出てくるのは、ちょっと不思議な感じがする。
ひとつは、へえブラジルにもクスクスがあったのかという素朴な驚きだが、もうひとつは、他の2つの料理(スナック? 軽食?)とだいぶ毛色が違うイメージのため。

ブラジル・パンデイロ♪
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/pandeiro.mp3

まるでバイーア娘がつくったソースをかけた
このクスクスに誰もがとろける
だからバイーア男は踊るよよーややー

例によって私の訳はテキトーであった。クスクスは大好物だし、それ以外は日本語にしても馴染みがないので割愛し、クスクスだけ残したわけだ。
しかし、本当にソースというか、スープをかけたようなクスクスなのか、やや怪しかったわけである。

そこへ、素晴らしい本が出版された。にむらじゅんこ『クスクスの謎』(平凡社新書)
期待に違わず、クスクス好き必読の素晴らしい内容である。
そもそも、クスクスって何なのか、どうやって作るのかというところから、歴史やヴァリエーション、その思想(!)まで、大変興味深い。
この本によると、クスクスをブラジルへ運んだのはレコンキスタ後のイベリア半島を追われたユダヤ人(セファルディム)であるという。
北アフリカのものがブラジルにあるのは決して不思議ではないとぼんやり考えていたが、どうも微妙に事情が違うようだ。
クスクスはたぶん強烈に「異教徒っぽい」食べ物だったのだろう。異端審問の厳しかったスペインではクスクスがほぼ消えたのに対し、比較的寛容だったブラジルには残ったという感じ。

さて、この本にはブラジルのクスクスとして3種類が採り上げられている。
・クスクス・パウリスタ(サンパウロ)
・ブラジル北部のクスクス
・ココナツミルクの海鮮クスクス
このうち、2つめ(「北東部」とすべきだろう)のが「マフィンのようなケーキ風」とあり、たぶん歌詞にあったのはこれではないかと推測される。
でも、3つ目のようなわりとイメージ通りのクスクスも存在するようだから、訳を変えることもないかもしれない(無責任)。

書いているうちに、クスクスがまた食べたくなってきた。
もちろん私の思い浮かべているクスクスはバイーア女とは関係のない、モロッコやチュニジアなどマグレブ風のものである。もちろん、豆との相性もひじょうによい。


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