猫と雀

いつも一般性の低い本の話ばかりで恐縮だが、お勧め本というより個人的な読書記録ということで、どうか大目に見てほしい……というこのコーナーであるが、今回は動物の本二冊。「お勧め」でも行けるんじゃないか思う。

ところで、私は今マンションの7階という生涯最高地点で暮らしているのだが、こんな蚊すらあまり近づかない場所にもときどき、動物の気配がある。
猫と雀だ。
猫はご近所さんが放し飼いに近い形で飼っているらしい。ときどき、窓の外をアクロバティックに移動したり、こちらを窺ったりしている。
先日、近所で猫を呼ぶ子どもの声がして「チビ、チビ」と聞こえた。
なんと、ちょうど読んでいた本(平出隆『猫の客』)に出てくる猫と同じ名前だ。フリーランスの子どもなし夫婦といい、他人事とは思えないが、やっぱりだいぶ違う。

この本に描かれるのは、猫それ自体というより、猫を愛してしまう人間の心のほうだ。
美しい文章で淡々と描かれるチビをめぐるストーリーはあっけなく終わるが、最後に小さな謎を残す。読後感がいいとは言えないが、私のようなまっとうに動物とつきあった経験のない人間にはぐっとくる。
たぶん、ムツゴロウさんなら鼻で笑うだろう。

窓の外にときどきやってくる雀は、猫とは比較にならないほど、さらに交流が困難な動物である。
私などは、視線を向けただけで逃げられる。
そういう意味で、クレア・キップス『ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯』は驚くべき本ではある。
生まれた直後から老衰で死ぬまでの雀の記録。ピアノとともに歌い(聴いてみたい)、飼い主と友情を結んだ雀……。
訳者はかの梨木果歩だし、いかにも文句なしの名著といった風情。
とはいえ、読みながらなんとなく違うと感じた。中身が特に悪いというわけではないのだが、たとえば、この日本語タイトルの物欲しげな感じが気になる。
原タイトルのSold For a Farthingは、ほとんど逆の意味だろう。

私は動物への過剰な愛情表現みたいなものが苦手で、その点でかなりひねくれているのだと思う。
憧れとともにこれらの本を読むと、少し悲しくもなる。
そして、窓辺に何か生き物がこないかと思って少し待ってみるが、猫も雀もそんなときに姿を現すことはない。


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